命名

命名

日常系
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解説あり
俺の親父には、どうやら悪魔信仰のケがあるらしい。 母によると、俺が生まれたことがそのきっかけになったという。 というのも、平成六年六月六日午前六時六分、俺は生まれたらしい。 そこに何か言葉には出来ない、ある種の運命めいたものを感じるあたり、パチスロ狂の親父らしい。 まあ、単なる数字のゾロ目ならびに、何を感じるものがあるのやら、はなはだ不可解だが。 母によると俺に名前をつける際、いささか揉める事態が夫婦間に起こったそうな。 『六助』 始め親父は、俺にこんな名前をつけようとしたという。 夫婦にとって初めての子供なのに、何故また六なのか。 そこは親父なりのセンスなのだろうが、そうのんきにもしていられない。 何せウチの名字は『鹿録』。 『カトリ』と読むのだが、読み方によってはロクロクとも読める。 六だらけの日時に生まれて、名前にもロクが三つ。 欧米かぶれなわけでも、映画『エクソシスト』の見すぎなわけでもないが、やはりいい気味がするものではない。 母の猛反対により『六助』は却下。 次に親父が捻出した一案が『陸』。 「かつて陸上自衛隊勤めしていたから」と、一見もっともらしい理由をつくろったらしいが、ばりばりの文系才媛である母の目はごまかせない。 小切手や領収書など、大金が動きうる取引上、ちょっとした書き足しひとつで、額面よりも多めに請求できてしまえる、 『一』の上に横線一本で『二』、二本で『三』、縦に一本ひけば「十」にしてしまえもする。 それを防ぐべく、本来のとは異なる、金額記入の際にのみ用いられる難字というのが導入されたわけだ。 『一』なら『壱』、『三』なら『参』という風に。 そのことを知識として持っていた母のおかげで、親父の妙案(?)はまたしても却下。 『陸』は『六』の難字表記だ。 よからぬ企みがあったのか否かはもう分からないけど、興醒めだとでも言わんばかりに、命名の役目を母に押しつけてきたらしい。 「正しく一本の道を歩んでいってほしい」という願いを込めて、『正一』と名付けてくれた母さん。 何故だか母のその発案を、快く手放しで祝福してくれた親父。ありがとう。 高校に進学したら、勉強も部活もアルバイトもがんばるよ俺。

命名」の解説

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