田代さんは海外出張の多い仕事だった。
どんな危険な地域でも仕事なら飛ばなくてはならなかった。
この時もアラビアへ出張していた。
貧富の差が激しいこれらの地区は
外国人にとっては大変に危険な地帯で警戒心が必要となる。
田代さんには現地に1人だけ多少日本語が出来て
信頼のおける友人Aがいた。
今回の出張もAのおかげで無事に終わった。
明日は日本に帰国する。
今日は最後の夜だった。
田代さんはAに報酬額を渡しながら言った。
「本当に毎回Aのおかげで助かっている感謝しているよ」
A「そんな事ないよ、田代さんが毎回お金くれてる私と家族が助かるね!今夜は最後の夜ね。一緒に飲みに行こう!」
こうして飲みに行った。
そこはダウンタウンで喧嘩している人がいたり、
誘って来る売春婦がいたり、
Aが一緒じゃなかったらと
ても日本人が行ける所では無い程の危険地域だった。
Aに促されるまま飲み屋に入る。
薄暗く土蔵の様な店内。
壁に直接書かれたアラビア文字が躍る。
メニューらしい。
Aと徒然なるままに話しをしていると
見知らぬゴージャスな出で立ちの男がAに話し掛けて来た。
姿からしてアラブの金持ちらしい。
そして田代さんに馴れ馴れしく終始笑顔で話し掛けて来る。
はっきりは、聞き取れないが…どうも…
「もっと面白い所に連れて行く一緒に行け」
と誘っている様だった。
Aは笑顔だったが遠回しに男の誘いを断ろうとしていた。
Aは男に見えない様に小さなメモを田代さんに渡した。
田代さんはトイレに行くふりをして席を外しメモを見た。
日本語の平仮名で
【たしろこんにちは】
と書いてあった。
Aのヤツ、今更、俺に挨拶かよ?なんだこりゃ?
意味がわからないまま席に戻ろうとした時に
壁に書かれたメニューが目に入った。
ハッとした。思い出した。
田代さんはAに急用があるから帰ろう!
と告げて男に別れを告げながらAと一緒にホテルに逃げた。
Aは笑いながら
「危なかったよ!あの男の誘いにのったら田代さん今頃死んだね!私も大事な仕事のパートナー失うところよ!これもいつかアラブの夜のいい思い出話しね!」
と言った。
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